AI、CD、ビートルズ。近田春夫の予言と音楽の未来(「2024年を振り返る」後編)【近田春夫×適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第78回
◾️ローリング・ストーンズが生き残っている理由
近田:その点で、逆にすごいと思うのは、ローリング・ストーンズ。ビートルズの命脈が10年で尽きた後も、自分たちの立ち位置を変えないまま、何にも世の中を変えぬまま、ここまで生き残った。まあ、前提として、ビートルズの存在がなければ、ストーンズは世に出てこられなかったかもしれないけれどね。
適菜:ストーンズが、他のバンドとは違って、長寿を保っている理由は何でしょう?
近田:例えば、プレスリーは、世相の変化に対応できなかった。晩年は、時代遅れのキャラクターと捉えられていたでしょ。でも、ストーンズは、常にエンタテインメントと時代との関係性を読み切っている。特に、ミック・ジャガーはその距離を測るのが巧みなの。インスタとかものすごく頻繁にアップするし、ライブ会場を観客がスマホで撮影しようがまったく怒らない。そういう意味で、今の空気というものを本能的に察知している。……というのに、やっている音楽は何も変わらない。
適菜:まあ、変わりませんよね。
近田:面白いのはさ、ストーンズのライブって、どんな大会場でやろうがあんなに客が大入りなのに、彼らがたまに出す新しいアルバムって、そんなに売れないんだよね(笑)。CDを買うほどの熱狂的な信者に対してよりも、ライトな客層に対し積極的にアピールしてきたからこそ、続いているんじゃないかと思う。
適菜:なるほど。最近、ブルースに関するドキュメンタリーを何本か続けて観たんですが、その中で、ローリング・ストーンズについて語っている人物がいたんです。
近田:興味深いねえ。何て言ってたの?
適菜:「ストーンズは、ブルースをアメリカからイギリスに輸入し、ほぼ原曲そのままのナンバーを、彼らの作品として発表した。でも、それを自らのオリジナルだとは言い張らずに、アメリカから盗んできたんだと認めていたことが偉い」という趣旨の話。
近田:そこがストーンズなんだよ。正々堂々と割り切るんだよね(笑)。
適菜:ひとつ近田さんに質問したかったことがあります。昔、エレキギターを弾くと不良になるっていわれていましたが本当ですか?
近田:本当だったと思いますよ。エレキギターという楽器の表現の本質って、音色じゃないんだよね、音量なのよ。あれ、ちっちゃい音で弾いてれば何てことはない。でかい音で弾くから、迷惑になる。つまり、オートバイのエグゾーストノイズと一緒。
適菜:ギターもバイクも、大きな音出すだけなら簡単ですもんね。そして、自分が強くなった気になれる。
近田:しかも、どっちも音が歪んでるじゃん。エレキギターはアンプやスピーカーを通して、バイクのノイズは金属の部品を通して、それぞれ爆音を響かせてるわけで、その音は自然界には存在しない。それを、これみよがしに迷惑を承知で大人にぶつけるアティテュード。そこが不良たる所以なんだと思う(笑)。
適菜:ライブを観に行って浴びる音って、ヘッドフォンで聴く音とは全然違います。ベースの低音が、骨伝導でビリビリビリと響いてきますもんね。
近田:「しびれる」って、すなわちそういうことでしょ。
適菜:10年以上前ですが、六本木の「ビルボードライブ東京」でパーラメント/ファンカデリックの来日公演を観たんです。その時の座席が、チケットが安かったからか、巨大なアンプの目の前だった。席に着こうとしたら、現場のスタッフに「そこ座ると、鼓膜破れるかもしれませんよ」と忠告されまして。
近田:理不尽な話だなあ。向こうが用意した席に座ったっていうのに。
適菜:それで一曲目はマイケル・ハンプトンの爆音ギターの「RED HOT MAMA」で不安になった。うるさすぎる。二曲目以降はきちんとしたファンクをやってくれたので、鼓膜は無事でしたが。
近田:それはよかったよ(笑)。
構成・文:下井草 秀